
【1日1読】西脇順三郎「天気」

(覆された宝石)のやうな朝 何人か戸口にて誰かとささやく それは神の生誕の日。
今朝の首都は霧雨です。
どんな朝も美しいものだと思います。
日本語で書かれた文章の中で、とりわけ美しさの観点から語るに値する文章として、私ならこの3行詩を選びます。
西脇順三郎は、1933年、詩集『Ambarvalia』で、詩の世界に革命をもたらしました。
それまでの日本語芸術には無かった、地中海的イメージ。
日本の高温多湿な風土からは想像もできないような、空間の明るさ。
外国語の翻訳のような、語感のぎこちなさ。
日本人による日本語で、日本語が自明でなくなる、衝撃的な言葉の構築物だったのです。
後世の日本の詩への影響は計り知れません。
「天気」は、その詩集の最初に登場する作品。
この文章によって喚起されるイメージの、一体どこに、どれほどの強さの光源があるのか、自分の想像の中を見渡してみてください。
()から文章が始まる、というのも衝撃ですが、朝を描写するために宝石を持ち出すセンスが見事です。
「神」を原初の存在とするのではなく、今この朝に生まれるものと語る詩文は、朝という時間、朝という現象の偉大さを評価しているかのようです。
そして何より、朝とは、私たちの生気が生誕する時間です。