【味方につけたい1冊】no.2
廣野由美子『批評理論入門「フランケンシュタイン」解剖講義』

読書の効用とは何か。
まず、誰もが考えるのは、
「ものの見方を広げるため」
というやつでしょう。
でも、世の中に本は多数あれど、たった一冊で28種類の考え方を教えてくれる本はそうそうない。

今回味方につけるのは、廣野由美子『『批評理論入門「フランケンシュタイン」解剖講義』』。

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

どんな本なのか?

本書『批評理論入門』は、イギリスの小説家メアリー・シェリーが1818年に出版した『フランケンシュタイン――あるいは現代のプロメテウス』を、全28種類のテクニックで読み解いていくという、さながら人文理論の散弾銃撃のような書物
新書としては異例というか、いや新書ならではの優秀な企画だとも言えますが、2005年以来のロングセラーで、とにかく「買い」の一冊です。

小説『フランケンシュタイン』と管理人

先日のNHK『100分de名著』で『フランケンシュタイン』が取り上げられましたが、その案内役をつとめたのが、著者の廣野由美子でした。
(この番組名、よくあるエセフランス語で、死ぬほど気持ち悪いけど、中身が悪くないから許そう。)

『フランケンシュタイン』という小説を最初から最後まで読んだ人は、少ないかもしれませんね。
管理人は、早稲田の1年生だったとき、高橋敏夫教授の名物講義で読まされましたが、執筆当時19歳だった人物の手になるとは思えない高度な仕組みの小説で、かなり驚いた記憶があります。

ただ、『フランケンシュタイン』という小説の面白さを語るのは別の機会にまわして、今回は『批評理論入門』をいかに「使う」か、ご紹介しましょう。

原作小説を未読でもいいかどうか

本書は、当然ですがなるべくなら、『フランケンシュタイン』を読んでから手を付けたほうが、一層学習効果が高まります。
ただ、
「そんな見方もあるのか」
「文学研究の世界ではそういう考え方が育成されてきたのか」
と実感し、芸術作品や世の中を見るためにその考え方を実際に使ってみる、というのであれば、必須ではありません。

10ページ〜18ページで、ストーリー(語りの構造は無視した時系列)と、プロット(構造を踏まえた展開)の解説があるので、必要最低限の知識を得ることはできるのです。

原作未読の人のためのガイド

ただ、大切なのはそのあと。
本書は、
①小説技法篇
②批評理論篇
の、2部に分かれています。
もし原作未読の場合には、①を読むのは、結構ツライはず。
とっとと批評理論篇に飛び、
「小説ってものは、こんな風に何通りにも読めるのか」
「そんな考え方、今までやったことなかったけど、自分の身の回りに使ったらどうなるだろう」
「部屋にある手持ちの本に適用して読み返したら面白いかな」
と、考えながら、
視点を増やしてゆく目的で読んでいくのがベストな選択です。

批評理論篇はここを読もう!

この批評理論篇、全部で13の理論が紹介されているのですが、
「この小説で描かれる悪とは何か」
「フランケンシュタイン博士のモデルは誰か」
というような、小学生でも思いつくような、それでいて雑誌やテレビで見かけそうな読解というのは、最初のひとつ「伝統的批評」で終わっていて(しかも解説はかなりドライで客観的)、

・ジャンル批評
・読者反応批評
・脱構築批評
・精神分析批評
・フェミニズム批評
・マルクス主義批評

といった、お互い全然違う観点から、ひとつの小説を分析し、さまざまな要素を抜き出していきます。

中でも白眉は、9つめの「文化批評」の章。
ここを読むだけでも、780円+税を払う価値がある。
文化を考える、とはどういうことなのか、ハイカルチャー/サブカルチャーの区分けも考慮しながら、簡潔に説明したあとで、
視覚化された怪物の姿の歴史的変化を辿ります。

ベネディクト・カンバーバッチも演じたフランケンシュタイン

さてさて、「文化批評」の章で、1931年に公開されたアメリカ映画『フランケンシュタイン』の影響が凄まじく、フランケンシュタイン、と聞いて多くの人が頭に思い浮かべる姿がここで決定された、と明らかになります。
この映画、原作とはちがって、舞台が1930年代のドイツなんです。

これは、本書には書かれていないところですが、
名前のない怪物を演じた俳優は、名前を「ボリス・カーロフ」と書かれているのですが、これは彼のキャリア上の名前ではあるものの、彼自身はロンドン出身の俳優で、本名は「ウィリアム・ヘンリー・プラット」。
Boris Karloff、と書くと、ロシア風の綴りであることが分かります。

ボリス・カーロフ
マッドサイエンティストと不気味な怪物にドイツ人とロシア人を当てはめるという、アメリカの制作側のプロパガンダ要素だったわけですね。

最近ですと、カーロフ=プラットと同じくイギリスのベネディクト・カンバーバッチが、ヴィクター・フランケンシュタイン博士を演じたヴァージョンと怪物を演じたヴァージョンの2つを担当し、『ナショナル・シアター・ライブ 2015』で公開されました(管理人は見に行けず泣く泣く見送ったんですが……)
これ、もともとはロイヤル・ナショナル・シアターで上演したものを、映画館用に撮影し直したもののようです。
博士と怪物、両方を演じた訳者って彼だけなのでは。

最後に

批評理論篇ばかり語りましたが、ぜひとも原作を読んで、小説技法篇も一読し、アイロニー・異化・間テクスト性など、人文学では基本中の基本になっている思考方法も吸収してみましょう。
ひとつの物事を分析するのに28通りもの視点を駆使できる知性を育てたいですね。


関連書籍

原作『フランケンシュタイン』を読みたいなら、創元推理文庫ヴァージョンが圧倒的オススメ。
訳者ではなく、翻訳家の新藤純子が、これ以上は期待できないというくらい優れた解説を書いています。
(ところでこの新藤純子なる人物、プロフィールは書かれていないわ、ネットで検索してもそんなに情報が無いわ、何者なんだろう??)

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映画なら、ヴィクトル・エリセ『ミツバチのささやき』を御覧ください。
スペインの田舎町で、1931年版『フランケンシュタイン』のフィルムが上映される。ひとりの少女にその体験が及ぼす影響は、表立っては描かれない。
しかし、彼女の内側に新たに流れるようになったアンダーカレントとして、ところどころで噴出する。

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あと、これはちょっと出来は分かりませんけれども、原作者メアリー・シェリーをエル・ファニングが演じた映画が今年12月に公開されます。

メアリーの総て
(C)Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

2件のコメント

  1. 夜中に遊びがてら検索していたら、ここにたどり着きました。
    創元推理文庫の「フランケンシュタイン」をおすすめくださってありがとうございます。
    ここ数年、光文社文庫、新潮文庫、角川文庫から新訳が出て、30年以上たった創元は売れなくなっておりました(泣)。森下弓子訳は最も原文の感触に近い翻訳です。
    解説もおほめくださってありがとうございます。
    アマゾンでググると訳書が数冊出てきますが、「フランケンシュタイン」解説のあと、「キネマ旬報」などいくつかの雑誌その他で映画評論家しておりました。
    2010年以降、出版での仕事が激減し、最近はたまにキネ旬に出ている程度です。

    1. 新藤純子さん

      こんにちは、ま、まさかご本人からコメントを頂けるとは……!
      ありがとうございます。

      そうでしたか、映画評論家でいらしたのですね!
      大学時代、解説を夢中で読んで、「これを書いた人はとてつもないポテンシャルの持ち主なのだな」と脱帽したのを憶えています。
      新藤さんの解説はその後、本編よりもたくさん読み返しておりまして、
      正直に言いますと、コンパクトにして充実したあのスタイルを、ひとつの作品やその周辺を考える上でのお手本にしています。

      あらためて奥付を見ると、創元版は1984年初版とあり、文化的なメルクマールの年に出版されていたのですね。
      アンドロイド-サイボーグ-人工知能の話題が頻発する今、『フランケンシュタイン』はふたたび注目され始めているのかな、とも考えます。
      森下訳が原文に一番近い感触なのですね……
      まだ新品で手に入る”生き残っている”ヴァージョンですし、長編を読むのに抵抗がない友人には、まず創元版をオススメしています。

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