書物の海の冒険へ
彗星読書倶楽部の定番本:
リスト01
本を読むことは旅そのものだ。未知の領域へ足を踏み入れることもあれば、何度も訪れた故郷に戻ることもある。
彗星読書倶楽部の定番本リストを入り口に、驚きと発見、時に危険に満ちた冒険に出よう。
日常の中の神秘
結局のところ、日々の生活こそ私たちの全てだ。そしてその真っ只中に、思いもよらない事態、運命的な遭遇を見出す観察眼と想像力を持つ者たちがいる。
1:堀江敏幸『おぱらばん』
フランスで生活する日本人の語り手は、中国の卓球名人、美女に恋をする友人、ポストカード売りたちに出会い、かつて読んだ文学作品や幼い頃の思い出を回想する。やがて目の前の状況は読者の予想を超える展開を見せてゆく。
日本で現在最も精力的に活動している小説家の傑作短編集。
本書収録作はもちろんのこと、この著者の小説はほとんどが同一の展開(構造)で作られている。
著者はなぜこの手法を繰り返しているのだろうか。
それでも読者を飽きさせない理由はどこにあるのだろうか。
この語り手は作中の出来事を柔軟に受け取り、そこに新たな意味、もしかするとこれまで誰も考えなかったような意味を見出そうとしている。
読者も、その能力を習得できるか。ある出来事に、第一印象とは異なる別の意味を、自力で発見できるか。
2:ポール・オースター編『ナショナルストーリープロジェクト』
小説家ポール・オースターが自身の出演する番組の企画として窮余の策で発想した、実話を募集する企画。そこにアメリカ中から多数の投稿が寄せられた。一読して実話とは信じ難い話、読者の笑顔を誘う話、個人的な罪の告白……1話1ページ〜10ページ程の珠玉のエピソードが詰め込まれている。
自分のお気に入りのエピソードはどれか。
それを10本程度集めた時、そこに自分の好みの傾向は見られるだろうか。
エピソードは実話かもしれないが、フィクションかもしれない。本書全体や各話がもつ「実話らしさ」の原因はどこにあるのだろうか。
3:高野文子『るきさん』
流行を知らない独身女性るきさん、流行に敏感なその親友えっちゃん。ふたりは助け合いながら、日常生活を楽しんでいる。ドラマティックな出来事は何も起こらないからこそ面白い、1988年から1992年まで情報誌『Hanako』に掲載されたロングセラー漫画。
るきさんとえっちゃんはどの地域に住んでいるのだろうか。
作中の色使いには、どのような工夫が見られるか(例:1話内の色数はどれくらいか、それはなぜか)。
もしも今、るきさんとえっちゃんがいるなら、どんな生活をしているか。
4:萩原朔太郎「猫町」
日本の詩歌世界に革命を起こした詩人が書いた唯一の小説。歩みゆく先々で語り手が迷い込む幻想の街は、所詮は幻想なのか、それとも現実の一郭なのか。麗しい/恐ろしいイメージへの虚心な耽溺が、それゆえに記述の冷静さを生み、さらに一歩進んで空想的お遊びへの皮肉になってもいる名品。
本作の記述を支える論理であると同時に20世紀の芸術の原理である、ありふれて気にも留めていなかったものが突如見慣れない真新しいものに感じられてしまう「異化効果」(シクロフスキー)を読者の日常の中に発見・創出せよ。
「温泉地」から「繁華な美しい町」への境界はどのように表現されているか。
読者の経験上、語り手が迷い込んだ空間に近い場所はあるか。
5:西東三鬼「神戸」「続神戸」
ある日突然妻子を置いて東京を出奔し、神戸の町に流れ着いた男は、世界各国から喰えない人々が集まるホテルで暮らし始めた。しかしこの町にもやがて戦火が迫る。俳句に革命を起こした異色の俳人が実体験をもとに書いた小説。
他の港町・都市部には見られず、神戸にだけ見られる性質はあるか。
全てを手放した主人公はどのような手段・順序で人と接触したか。